個展『More Light』

 ひらのにこは2024年で活動10年となります。
 その節目として10年を振り返り、また次の10年に繋がるような展示にしたいと考えました。
 ひらのにことして最初に描いた絵が『幼い季節の終わり』という作品です。 
 この作品を描き終えた時に、「内側から淡く発光するような少女像を描いていこう」と決めました。
 届かない言葉
 秘めた思い
 かき消された声
 そういった見過ごされ奥に仕舞われてしまうものを掬い上げたいという情念がずっと自分の根底にありました。
 その熾火のような衝動は『淡い光を纏った少女像』という形を得ることで、はじめて明確な表現になったのだと思います。
 
 ひらのにこの作品・表現を思い浮かべた時の特徴として、淡い色彩とシンプルさがあると思います。
 このふたつは自分にとっては現実に対するプロテストでもあります。
 
 今、日々生活する中で複雑な表現や強い主張、ビビットな色に溢れているように感じます。
 膨大な情報の中に生きる現代で何かしら表現をしていくには、声は大きく主張は激しくしなければ誰にも届かないからかも知れません。
 
 その混濁とした時代の中で余計なものを省いて除いて。
 そぎ落として残ったものが本質に近いのではないかと考えています。
 極論を言えば、線一本で全てを表現できるなら至高です。ですがそこまでは至れないので、要素を削り、減らし、色をおさえる。
 そうすることで浮かび上がってくるものがあると信じています。
 それは決して強い表現に負けるものではないと確信しています。
 
 激しい時代に淡さを表現すること。
 複雑怪奇な現代をシンプルに削ぎ落とすこと。
 それに加えて自分には追求しているフォルムがあります。
 
 時に『魅力的な女性像』と仰っていただけるのは、私にしかできないデフォルメがあるからだと思っています。
 女性を魅力的に描きたいのではなく、自分の中の理想的なフォルムになるよう手探りでデフォルメを繰り返す。
 それもこの 年で探求してきたことです。
 その理想像とは『救いのイメージ』です。自分にとって絵を描くという行為は贖罪でもあります。救われないとわかっていてもせめてつぐないたい、そのために少しでも美しいものを残したいと祈りのような思いで描いていることもあります。
 
 今個展では、
 淡さ
 シンプルさ
 フォルム
 を今一度原点に立ち返りながら、現在の視点も混ぜて再構成を試みています。
 
 もっと淡く。
 もっとシンプルに。
 もっと理想的なフォルムに。

 そして、もっと光を。

2024年4月 ひらのにこ